Massachusetts Institute of Technology
Department of Chemistry
The Seeberger Lab

 学問の都ボストンにあるマサチューセッツ工科大学(MIT)の化学科は、DREYFUS Buildingと呼ばれる18号館とWHITAKER Buildingと呼ばれる56号館にラボを構えている。そのなかで我がSeeberger研は18号館の2階にあり、総勢13人が日夜研究に励んでいる。
Seeberger教授 (more)
  我らのボスは弱冠32歳というMITきっての若手教授である。98年1月に赴任し、現在ラボを構えてからようやく2年目のシーズンを送っている。彼はドイツのニュルンベルグ大学を卒業した後アメリカに渡り、コロラド大学で学位を取得(ときどきコロラド大学のTシャツを着て構内を闊歩している姿を見ることが出来る)。その後、ニューヨークのメモリアルスローンケタリング癌研究所でポスドクを終えた後、ここMITで独立を果たした。彼の研究(つまりはこのラボの研究)は、多糖の有機合成、それもこの分野で現在その成功に最も注目が集まっている「固相自動人工合成」をメインテーマにしている。もっか売り出し中の彼であるから、2週間に1度は世界中のどこかの学会で講演を行っているという、超多忙な毎日を送っている。おかげで、思いついたことをすぐさまメールで送ってくることもしばしばで、日曜日の夜中にメールをチェックするとコメントが入っていたりする。
  ところで、有機合成とは無縁の「生化学」を専攻していた私が、なぜこの研究室に存在しているのかというと、若き野心家であるPeter(Seeberger教授のfirst name)のもうひとつのテーマがbiochemistryとorganic chemistryの融合した新しい研究分野の創造であるからだ。つまり、海の物とも山の物ともわからないことをまさにやろうとしているということに、敢えてつきあおうということなのだ。日本から研究のために来られる方の中には、こうした状況に身を置くことに賛否両論あるのも事実だが、日本では新しく研究室を立ち上げるシーンに遭遇する機会そのものが少ないので、アメリカだからこそ出来る仕事とも言えるかもしれない。
ラボの構成
  ラボの構成は、ポスドク5人、大学院生7人、秘書1人で、国籍はアメリカ(6人)、ドイツ(3人)、アルゼンチン、ブラジル、ベネズエラ、日本となっている。今年の5月からポスドク3人、大学院生2人が新たに増え、現在の規模に拡大した。しかし、実験室が2つあり、それぞれ各人がデスクと実験台、そしてドラフト(有機合成の部屋らしい)を1つずつ所有しているという、恵まれた環境が用意されている。また、合成の部屋だけに研究室内での飲食は禁止されているが、コンピュータールームを兼ねた飲食を唯一許可された小部屋があり、実験の合間の憩いの場となっている。ちなみにコンピューターはこの小部屋(その名も"Smallest Room")にマックが3台あるきりで、論文の作製やインターネットでの情報収集などで使用頻度が高いため、いつも誰かしら占有している。前の研究室でほぼ一人が一台を所有していた環境がなつかしい。
ラボの雰囲気
  ボスが若いだけにラボの雰囲気は活気に溢れ、何事にも非常にアクティブである(今日のできごとを参照のこと)。実験はそれぞれのペースで進められているが、日曜日も研究室には誰かしらの姿を見つけることが出来る。また、実験以外でも思い立ったが吉日とばかりに、研究室の黒板で突然集合を呼びかけられ、ぞろぞろと街に繰り出したりしている。また、各実験台はベイと呼ばれる構造になっていて、実験室の中がそれぞれ2人ずつの扉のない小部屋に分かれている。そのため、同じ実験室でありながらとなりのベイの様子や音があまりもれてこないので、それぞれのベイでおもいおもいの音楽をかけて気持ちを盛り上げながら実験をしている。私のベイメイトのベネズエラ人ルイスは、UC.Berkeley時代にアジア人の友達が多かったらしく、非常なアジア好きで、デスク中に中国や韓国の芸術品が置かれている。おかげで日本のCDをたまにはかけろと催促されるので、ありがたく聞かせてもらっている。
  ミーティングは週に一度だけ、火曜日の午後7時から行われ、それぞれの実験の進行具合を報告する。また、その際にボスから最新トピックが紹介され、ボスの参加した学会報告などがあると、ゆうに2時間の時が過ぎることもある。ただ、この定期的なミーティング以外に個別のものが突発的に召集され、研究の軌道修正や新たなアイデアの補足などは、かなり迅速に行われている。さらに、誰かが重要な論文が発表されたのを発見した場合には、すぐさまラボメンバー全員にコピーが配られ、全員が見逃すことのないような配慮がなされている。

→ MIT あれこれ


最終更新日:1999年 7月 25日