備忘録・2000年9月

日々の出来事やその日に仕入れた情報をお届けします

Thursday, September 28, 2000
 ハーバード大学の本部キャンパスの生化学系の講堂にて、正午から僕の専門の分野のセミナーがあるというので、同僚と一緒に参加した。

 本部キャンパスと医学部のあるメディカルエリアは、とんと違う場所にあるので移動も大変なのだが、ハーバードのIDを持っている人のみが利用できるシャトルバスが30分おきに両地点を往復しているため、そこはなかなかに便利に出来ているのである。所要時間約20分。

 セミナーでは、フランス語なまりの英語に多少四苦八苦しながらも、最近「ネイチャー」に掲載された話題を中心とする紹介で、なかなかに満足のいくものだった。

 まあ、一番印象に残っているのは、会場で提供されたチョコレートクッキーのうまいこと・・・ということで同僚と意見が一致した次第。

【今日の科学情報】
広範囲の生物において、カロリーを制限すると寿命が延びることは良く知られているところ。これは、呼吸時に産生される活性酸素の濃度が低下することにより、カロリー制限が効果を及ぼすと考えられてきたが、このような摂生が老化を遅らせるメカニズムはいまだ不明。最新の「Science」誌に、酵母において、生理学的および遺伝学的手法を用いてカロリー制限を模倣したところ、寿命の十分な延長が観察されたことが報告されている。この延長はSIR2遺伝子の変異体、およびNPT1遺伝子の変異体では観察されなかったことから、カロリー制限により誘導される長命は、NADによるSir2p活性化を必要とすることが示唆された。
Lin, S.-J., et al.(Sep 22, 2000) Science, Vol.289, 2126-2128


Wednesday, September 27, 2000
 昨日の夜は、MITの化学科の新大学院生を対象とした我がラボの研究紹介の会。さらに、そのあとの打ち上げで、午前様になるまで喋った、飲んだ。

 今日のお昼は、病院の方の4つのラボで合同で行われている、ジャーナルクラブという論文紹介の担当となっていたので、約1時間ばかりのプレゼンテーション。大ボスからの鋭い指摘に、しばし立ち往生。

 そして、夜はMITでのミーティングがあり、同僚のポスドクの独立のための、審査会に向けた発表練習に参加。いかに自分をアピールするかについて、実に熱い意見がかわされた。

 なかなかタフな2日間だったけれど、これまでで最も密な英語を聞いたような、そんな充実した時間が流れた。

 とは言え、少し疲れたかな。


Monday, September 25, 2000
 ノーベル化学賞を1981年に受賞した故・福井謙一博士が所長を務めていたことで知られる、財団法人「基礎化学研究所」が、財政難のため3年後に解散し、全資産を京都大学に寄付することを決めたそうだ。

 こうした基礎的な研究をする施設に限らず、不況の影響で企業の研究所ですら大なり小なりの余波を受けているけれども、目の前の利益が望めないからといって、5年先、10年先、30年先の展望も見ずに、こうした社会を根本から支えるはずの土台が真っ先に切られる風潮が、果たして後々の世に影響を及ぼさないでいられるのだろうか。

 これは日本に限った話ではなく、利潤追求を至上命題とする現代の経済構造の中で、一見遠回りに見えるような地道な努力を、時代というスピードに追いつけないからといって、その価値までも見捨て去って先を急ぐことに、一抹の不安を感じずにはいられない。

 こと科学者の世界に目を向けても、研究費を稼ぐためには、最も研究者が多く、それゆえ競争相手も多い、言い換えれば流行の最先端の研究に身を置くのが手っ取り早い。華やかなればこそ、人もお金も集まるというわけだが、それだけ人知の浪費となることも多い。

 もちろん、風俗的な流行とは違って、科学の世界の流行には、時流に乗った人が集まるだけの理由があって、それを批判するつもりは毛頭無い。それよりも、そうした主流からはずれているような研究へ、すなわちすぐにはその価値が見出せない仕事への投資が、もっとダイナミックに行われるような、そんな懐の深い社会を、我が日本は是非目指して欲しいなあと思うのだ。

 そうした仕事は、実は時代から取り残されているのではなく、時代をはるかに凌いでいるために先端が見えないのかもしれないのだから。


Sunday, September 24, 2000
 良いことがあると(昨日の備忘録参照)、次に待ち構えているのは・・・。

 ちょこちょこっとホームページの内容をいじっていたら、昨日以前の9月の備忘録の記事を、こちらのミスですべて消去してしまった。バックアップもなし。

 もしどなたか、昨日までの記事のファイルを「保存」しているという、非常に親切な方がありましたら、是非にご連絡ください。どうぞよろしくお願いします。

 はあ、ゲストブックへの書き込みも出来なくなってしまったし、なんだかトラブルが多いのである。


Saturday, September 23, 2000
 午後8時から「THE WANG CENTER」で行われたバレエ(Ballet)を見に行ってきた。

 会場について、自分の席はどこかと係員に尋ねてみると、セッティングの関係で予約した席は無いとのこと。申し訳ないが、あそこにトラブル係りがいるから彼に相談してくれと言うので、なんだか事情が飲み込めないながらも、言われたままにその係りのところに行くと、代わりにこちらの席に行ってくれとチケットを渡された。

 で、最初に相談した係員のところに戻って、こんな券を渡されたんだけど、これはどこだろうとチケットを見せると、「あらまあ、ずいぶんと良い席に代えてもらったこと」となにやらニコニコとしている。

 案内された席は・・・ステージで演じる人々の顔がはっきりと見える、まさしく特上の席だった。こんな良いこともたまにはある。

 ところで、会場は黒いタキシードや豪奢なドレスに身を包んだ方々の社交場と化していて、ちょいとばかし場違いな雰囲気を感じつつも、我が身と同じ様な服装の人を見つけては、ホッと胸をなで下ろしての鑑賞となった。

 今日は「THE WANG CENTER」の開場75周年も兼ねた記念イベントで、目玉はヨーヨー・マをソリストに迎え、サミュエル・バーバーのチェロ協奏曲による、ボストンバレー団の華麗なる舞い。

 「本物」を鑑賞すると、ほんとになんだか向こう3日間くらいは、心がポカポカするような感覚になるものである。


Tuesday, September 13 - 22, 2000
 こちらの不注意により、上記の期間の備忘録を消去してしまった。


Tuesday, September 12, 2000
 仲秋の名月の今日(ちなみに本当の満月はこちらの明日で、日本では14日)の研究報告セミナーは・・・来週に延期。

 あまりに急な変更だったので、準備を進めていた身としてはちょっと気が抜けてしまった。

 今日は、突然のドイツからのゲストのセミナーが行われたというわけだが、このセミナーがなかなか刺激的で大いに感化されたので、こちらのセミナーが延期されたのも良しとしよう。

 彼は、年格好はほとんど僕と変わらないくらいだが、ドイツで3人の学生を抱えるボスで、ドイツ人とは思えない流暢なイギリス英語を駆使した発表は、とても興味深かった。なにより、全てに自信があふれていたのが印象的で、うちのボスがなにやかにやと意地悪な(ジョークの一種だけど)質問をしても、さらりとかわすのがちょっと格好良かったりして。

 こんなふうに、発表が出来たらいいなあ・・・というのが無いものねだりとならないように、精進、精進。


Monday, September 11, 2000
 今日は話題豊富な一日。

 まずは、昨日の備忘録の訂正から。「吉田友佳はジュニアの優勝経験はありません」とのご指摘は、まったくそのとおりで、こちらの記憶違いでした。お詫びして、訂正します(というわけで、昨日の記事は少し書き換えました)。

 しかし、1993年の全英、全米のジュニアで連続してダブルスの決勝の舞台に立ち、おまけに全米ではシングルスも決勝進出したのだから、優勝こそいずれも出来なかったけれど、快挙であったことには違いない。

 また、「どうして杉山愛にはつかないのに、吉田友佳には『さん』が付くのですか」とのご指摘は・・・、まあ、するどいというか・・・。ちなみに、仙台の下宿では「友佳ちゃん」とみんなが呼んでいるけれど、本人はまったく知らないことだろう。で、質問に対する答えとしては、「杉山愛さん」というとなんとなく変で、「吉田友佳」というとなんとなく変、というまったく説得力のない理由なのである(あくまでも、僕個人についての問題だが)。

 さて本題。今日は、先週までフランスでバケーションを取っていた隣のラボの一人が、出勤。おみやげに、フランスのチーズを各種持ってきてくれたので、それをみんなでワインとフランスパンと共に堪能したという次第。5種類ほどあったうち、実はカマンベールしか名前を覚えていなくて(本物のフランス語で名前を言われても、全然頭に残らない)、なんとも報告のしようがないのだが、どれもおいしかったことだけは忘れていない。

 それから、夜にはフットボールの試合があった。NFLのゲームは、基本的には日曜日に行われるのだけれど、全31チームが対戦する15試合のうち(1チームは休み)、1試合だけ月曜日に行われ、「Monday Night Football」という名で親しまれている。まあ、これはテレビ局(全国ネットのABC)の戦略でもあるわけだが、そのきょうの試合がAFC-Eastからピックアップされて、我らのペイトリオッツが宿敵ニューヨーク・ジェッツと対戦した。

 試合は、残り2分を切ってからジェッツが逆転のタッチダウンを決め、そのまま逃げ切って、19対20で惜しくもペイトリオッツの負け。初戦に続いての敗戦となってしまった。この、なんとも悔しいあたりが、すっかりボストニアンなのである。

 さてさて、明日はMITで実験報告セミナーが控えている。まとまった話ができるので、それぞれのメンバーの反応が楽しみだ。まずは、理解してもらえるように話さなければならないのだが。

【今日の科学情報】
 Natureの6月15日号に掲載された「Nature Insight: Functional Genomics」の完全日本語訳をネイチャー・ジャパンが作成し、無料で配布を行っている。申し込みは「http://www.natureasia.com/japan/genomics_sample/」から。ゲノム機能研究の最先端を知るには、うってつけの情報が満載。


Sunday, September 10, 2000
 全豪ベスト8→全仏ベスト4→全英準優勝、そしてきょう行われた全米で優勝。見事なまでの理想的なステップアップ。

 テニスの杉山愛は、今日が誕生日というフランス人のジュリー・アラール・デキュジスとともに、女子ダブルスでこの日、今季5勝目を4大大会優勝という形で終えた。11日に発表される女子ダブルス世界ランキングでは、デキュジスが1位、杉山は2位に浮上し、名実共に世界の頂点に立つ。

 ところで、仙台に居た時にお世話になった下宿には、これまで70人を超える卒業生がいるのだが、その中に、現在女子プロテニスで活躍する吉田友佳さんのお父さんがいる。そんな縁もあって、ジュニア時代にウィンブルドンやUSオープンで沢松和子以来の決勝進出を果たし(いずれも準優勝)、現在も杉山愛に次ぐ活躍をしている(WTAダブルスランク74位)彼女は、我ら下宿生の期待の星。彼女は杉山愛とは湘南工大附属高の同級生ということもあって、ツアーを共にすることも多かったそうだ。

 世界を転戦するツアーでは、伊達公子がいつもおにぎりと梅干しを持ち歩いたように、いかに日本に居るような雰囲気でリラックスをするかというのも大切だそうだが、彼女たちは一緒に居るときはいつも将棋盤と駒を持ち歩いて、二人で盤を挟んで、対局を楽しんだそうだ。

 現在、流暢にインタビューにも英語で答える杉山愛を見れば、もう将棋盤を持ち歩くなんて事もないんだろうな、と将棋部出身としてはちょっと寂しくもあるが、いずれにしても、これからますます頑張って欲しいと思う。

 次は、2大会連続優勝を飾ったビーナス・ウィリアムズ目指して、杉山愛のシングルスでの朗報に期待。もちろん、吉田友佳さんの活躍にも期待している。


Saturday, September 9, 2000
 昨日の大家、今日のマルチネス、ともにレッドソックスが誇るピッチャーの投球は、本当にすばらしかった。チームの防御率1位、2位コンビにふさわしい内容だったと思う(大家は現在防御率2.79と先発投手陣中2番目の成績)。ちなみに、ベースボールの話。

 しかし、宿敵ヤンキースには二日とも勝てなかった。これは相手が悪いとしかいいようがない。

 ノブロック、ジーター、オニール、マルチネス、ポサダと名前だけで敵を圧倒できる打者がずらりとそろっているにもかかわらず、更にインディアンスから強打者ジャスティスをトレードで獲得し、それでもまだ物足りないのか、かつてアスレチックスでマグワイアと共に「バッシュ・ブラザーズ」と恐れられたカンセコをデビルレイズから補強。これで、点が入らない方がおかしいという布陣である。

 そう考えると、昨日6回3分の1を投げてわずか5安打、自責点1点でこの強力打線を沈黙させた大家のピッチングが、いかにすばらしかったかがわかろうというもの。特に3回までを9人の打者で切ってとったのだから、エースの風格さえ漂う堂々たるもの。もう完全にレッドソックスのプレーオフ出場の鍵を握っているピッチャーと言って良いと思う。

 それでも、勝てるとは限らないのが勝負の世界の厳しいところ。結局は、勝たないことには評価はされないのが現実でもある。

 とは言え、全力を尽くす過程が、後の結果を導くのも事実。大家投手には、今後の成果を楽しみに、是非頑張ってほしいと思う。


Friday, September 8, 2000
 そろそろ我が家(福島の実家)では、稲刈りのシーズンを迎える。

 高校入学以来、あれやこれやと理由をつけては稲刈りの手伝いを避けて通っていたので(もちろん、当時のっぴきならない用事があった・・・はずだが)、あまり偉そうに言えた義理ではないのだが、「稲刈り」という響きには、百姓の血を引くものとしてやはり胸踊るものがある。

 そんな思いもあって、今日は「コシヒカリ物語」(酒井義昭著・中公新書)という本を紹介。コシヒカリが更においしく感じられるに違いない。

 この本は、日本一うまい米として揺るぎない地位を現在獲得しているコシヒカリの、50年に亘る誕生秘話を綴ったもの。これまでにも、いろいろな形で誕生にまつわる話を描いた本が出版されているが、この本は保存されている資料を丹念に調べ尽くして、なおかつそれぞれの時代にコシヒカリに携わった人たちの思いを語りながら、コシヒカリの誕生にまつわる七不思議に迫ろうという労作である。

 食糧難の時代で、食味なんて二の次であった太平洋戦争末期から戦後にかけて、増収増産を至上命令として行われたはずの交配から、なぜにいまだその味を超える米を輩出できないほどの最高においしいコシヒカリが誕生したのか。今と違って、機械化が十分でなかった戦後に、人手だけで作るには大変な労力を必要とし、おまけに病気にも弱い、さらには収量も悪いこの米が、いかにして生き残り、そして日本一と言われるまでに全国に広がっていったのかという疑問が明らかになるにつれ、お百姓さんや育種に携わる農業試験場、さらには市場のそれぞれの立場の思惑のぶつかりあいが、なんとも複雑な世の中を象徴しているようで興味深い。ちょっと、読み物というよりは歴史書か科学史という感じの体裁だが、それだけに信頼感あふれる記述が心地よくもある。

 ああ、それにしてもうちのコシヒカリ、もう1年以上、口にしていないんだなあ。


Thursday, September 7, 2000
 夏休みの間行われていた、MIT化学科の研究室対抗バレーボール大会は、今週決勝トーナメントが行われていて、今日まで勝ち進んでいた我がチームは、ついに準々決勝の試合を迎えた。

 今日の相手は、優勝候補ナンバーワンとの呼び声の高いチームで、そのメンバーにはセミプロとうわさされる身長2mのドイツ人が一人いる。

 こちらはチームワークでの勝負でなんとかくらいついていくものの、じわじわっと点差を広げられる展開。個人的にはスパイクが好調で、「なるほどその頭にしたのは、空気抵抗をなくしてより高くジャンプするためだったのか」などと言われながらも、ひとり気を良くしていたのだが、敵もさる者で、こちらがスパイクを決めると、2倍になって返ってくるような強烈なスパイクが見舞われる。

 結局、0-2のストレートでの敗退となった。

 これにて、僕のバレーボール人生は終了・・・、ではなく、今年のバレーボールシーズンは終了で、来年までのお楽しみ。

【今日の科学情報】
 イギリスのインペリアル・カレッジの研究者によって、猛毒として知られるシアンを使った、非常に有効性の高い新しいガンの治療法が発表された。これは、アジサイなどの植物に存在するリナマラーゼというシアン合成酵素を利用するもの。このリナマラーゼは、植物が動物や昆虫の被害を受けたときに働く酵素で、これをガンの治療に用いると、健康な細胞を残しながら、ガン細胞を死滅させる物質が作れるそうだ。この治療によって体内で生成するシアンの量が気になるところだが、シアンはガン細胞を殺すのに必要な程度のみ生成し、たとえ余分なシアンが出たとしても、ヒトの肝臓で生成される酵素により無毒化されるという。毒をもって毒を制するこの治療法が、果たして成功するか否か、今後に注目。


Wednesday, September 6, 2000
 今月末をもって出向が終了することがほぼ決まった。ハーバードの研究室からMITの研究室へとメインベンチを戻すことになる。それまでにやらなければならないことは山とあるし、それよりも何よりも、またまた引っ越しである。はあ、引っ越しとは本当に縁がある。

 ラボを去るということになり、ボスに呼ばれて申し渡されたことは、今月末にあるセミナーと11月にある4つのラボの合同セミナー、さらには年末に予定されている病院のセミナーをお前にやるから、そこでこれまでの結果を発表するようにとのこと。

 最後に花を持たせようという、とてもありがたいボスからのプレゼント。ちと、多すぎはしないかとも思わないでもないが。ちなみに、来週にはMITでの実験結果報告があるし、11月にはアメリカ糖鎖生物学会での発表もある。なんとも、英語での口演練習には事欠かないが、これが単なる練習ではなく本番だというのが、まあ、その、なんというか、頑張るか。

 ボスからの「プレゼント」は、もう一人のMITのボスからも。

 こちらのラボのウェブサイトも、ひょんなことから管理をすることになっているのだが、最近研究内容に関して問い合わせが多いので、研究紹介のページを作るようにとのお達し。なんだかんだでちょっと時間がかかったけれど、ようやく完成して晴れて公開の運びとなった。もっとも、骨子はもちろんボスが作ったわけだが。

 この研究紹介のページには、今現在行われている研究がすべて網羅されているので、是非ちらっとでも覗いてもらえればこれ幸いである。ちなみに、我がラボのメインプロジェクトは、DNA合成機ならぬ「糖鎖合成機」の開発に必須となる複合糖鎖の固相合成の研究。ペプチド合成機を世に出した研究室出身のボスの、使命感に燃える大テーマでもある。


Tuesday, September 5, 2000
 本当に忙しい場所である。といっても仕事の話ではなく、気温の話である。ボストンの。

 屋根の直下の最上階にある我が家は、熱がこもるせいもあるのか、先週あたりは突如として夏の涼しさを取り戻すかのごとき「蒸し暑さ」がぶり返してきたのだけれど、今日の寒いこと寒いこと。

 朝の最低気温が12℃というから寒いはずだ。結局、日中の気温も18℃までしか上がらなかったようで、その上雲一つない青空が広がっているから、まさに天高く馬肥ゆる秋の到来を感じさせる。

 もっとも、暑いと言ったり寒いと言ったり、一番忙しいのは我が身かもしれないが。

【今日の科学情報】
世界中で専門医から町医者にまで広く利用されている医学書で、現在知られている病気をほぼ網羅しているメルクマニュアル第17版の日本語版(家庭版も含む)がウェブで公開された。この版は第1版の発行から数えて100年目に当たる記念の版。それにしても、普及版で9800円、特別装丁版だと14800円もするこの本のほぼ全文がウェブ上で読むことが出来るのは驚き。


Monday, September 4, 2000
 夏の終わりを告げるLabor Day(労働者の日)の今日は、全米の祝日。研究室のある病院も、今日はひっそりとしていた。

 しかし、こちらは普段通りにボスとのディスカッションがあって、あれやこれやと喧々諤々。いよいよこのプロジェクトの最後の追い込みである。

 MITのボスからも連絡があり、現在進められている化学科の建物の改築工事に伴っての、僕たちが入ることになる研究室のデザインについての相談。なにしろ、合成化学に携わる一画と、生化学の実験をする一画が、まさに有機的につながった空間を目指した間取りとなる予定なので、これまでにもいろいろと生化学分野での空間の使い勝手などの意見を求められているという次第。

 もっとも、この新しい研究室が完成するのは向こう3年以内と言われているので、果たして僕がそれまでここに居るかどうか、はなはだ未知数ではあるが。


Sunday, September 3, 2000
 いよいよ2000年のアメリカンフットボールのレギュラーシーズンが開幕。ボストンを拠点とするニューイングランド・ペイトリオッツは、地元のフォックスボロにタンパベイを迎えての開幕戦となった。新ヘッドコーチとなったビル・ベリチックの初戦でもあるわけだが、プレシーズンマッチを見る限り、新戦力がチームに溶け込んでいる感じで、なかなかに期待の持てる様相。

 しかし、いざ始まってみると、なんとも思い通りにはいかないプレーが多く、16対21で惜しくも敗戦。まあ、始まったばかりではある。

 夕方からは、野球のレッドソックスの試合を見に、フェンウエイパークに出かけた。今日の先発は何とも奇遇なことにまたまた「Tomo Ohka」。このチケットは2カ月前に取ったものなので、まさに奇縁なり。前回の観戦では、惜しくも負け投手となってしまったので、今度こそは。

 対戦相手はシアトル・マリナーズ。横浜から移籍の佐々木投手のいるチームだ。試合は、初回に大家が2点を先制され、その後よくしのぐものの、味方に8回まで1本のヒットも出ない状況では、ちょっと彼に酷な試合となった。6回で降板した内容としては、絶好調とは言えなかったかもしれないが、まあ悪いなりに試合を作ったという点で、首脳陣の信頼を裏切る結果とはならなかったに違いない。

 さて、8回を終わって0対3と敗色濃厚。こうなっては仕方がない。9回に佐々木の登板を見て、逆転サヨナラ満塁ホームランを期待するも良し、さもなくば、ア・リーグ新人の新記録達成となる佐々木の記念すべき32セーブ目をこの目に収めるも良し。

 ところが、我らがレッドソックスの中継ぎ投手たるや。9回の表にマリナーズを代表する強打者、ロドリゲスのホームランを浴びてしまった。5点差をつけられ、セーブの付かない場面となってしまっては、佐々木の登板も望めない。案の定、僕の目の前のブルペンで投球練習をしていた佐々木は、ホームランを見るやさっさと奥に引っ込んでしまった。

 試合はそのまま終了し、レッドソックスの負け。大家に負け星が付き、佐々木の投球も拝めなかった。まあ、すっかりマリナーズのユニフォームが板についた佐々木の、ブルペンでの投球練習をする姿だけは見れたのでよしとして。日本の横浜スタジアムのマウンドで、仁王立ちしていた姿を見たときとなんら変わることは無かったのが妙に印象的だった。

 というわけで、アメフトは負けるは、野球は負けるは、ついでに言えばサッカーのレボルーションも負けて、なんともボストンの気概の上がらない一日となった。


Saturday, September 2, 2000
 最近、長くイスに座っていることが多いせいか、腰に負担が掛かっているようなので、クッションを買い求めようと思い、研究室からの帰りに寝具や台所まわりの用品などを廉売している店に寄った。

 広い店内には、商品が背の高さをはるかにしのいでうず高く積まれているのだが、普段はモデル製品の展示会場よろしく整然と並べられていて、見ているだけでもなかなかに気分の良い場所だから、何の予定もないときでも時々立ち寄ったりしている。

 この店に入ったときには、すでに午後8時半を過ぎていて、9時に閉店することからすると、もうすでに人影もまばらかと思いきや、あにはからんや、大荷物を抱えた人、人、また人。この時間でそんなものだから、壮観だった商品の陳列も、あちこちでおおかたのものが無くなっている場所や、バーゲンセールの戦場の跡のように無残にも枕なんかが散らばっている光景も。

 どうやら「back to school」セールのせいらしい。昨日も書いたことだが、来週からほとんどの学校が始まる(ちなみにハーバードは18日とかなり遅い)ので、新たにこの街に引っ越してきた新入生などが、こぞって生活用具を買い出しに来ていたようだ。

 それにしても、ごっそりと品物が無くなっている光景は、なんだか異様なもので、石油ショックなんてのはこんな感じだったのかなあ、なんてことを思ったりした日だった。


Friday, September 1, 2000
 今日から9月。アメリカの9月と言えば、新しい生活が始まるシーズン。引っ越し荷物を積んだトラックが、街のあちこちに停まっている。

 夏の終わりを告げるのが、9月最初の月曜日に据えられた「Labor Day」で、今日から休みを取って4連休という人も多いのか、心なしか今日のお昼の食堂は人少なく寂しい感じがした。

 Labor Dayの次の日から、ほとんどの学校が新学期を迎える。大学も例にもれず、来週からフレッシュマンでキャンパスがあふれることだろう。気持ちも新たに、さあて、頑張りますか。




最終更新日:2000年 10月 9日