Harvard Medical School
Beth Israel Deaconess Medical Center
The Shworak Lab

 ハーバード大学医学部(Medical School)は17の関連病院を抱えており、そのほとんどの施設が、ハーバード大学の本部のあるハーバードヤードから直線距離で5kmほど離れたボストン市内の「メディカルエリア」にある。ラボのあるBeth Israel Deaconess Medical Centerは、救急用のヘリポートを備えているほどの巨大病院である。我がShworakラボはAngiogenesis Research Centerの中の一つの研究室で、Cardiology(心臓病学)を対象として研究を行っている。
Shworak教授 (more)
  我らのボス・Nickは、1999年9月にassistant professorとしてラボを構えたばかりの新進気鋭の新米教授である。カナダ・カルガリーにて学位を取得した後、MITのRosenbergラボでポスドクを行っていた関係から今でも強固な関係を保ち、MITとこのラボを往復する毎日を送っている。耳にはきらりとイヤリングが光り、普段は物腰穏やかな彼だが、いざディスカッションが始まるや、矢継ぎ早の質問やとめどなく溢れでてくるアイデアにはただ圧倒されるばかりである。
  彼は一貫して複合糖鎖の一種のヘパリンの生合成にかかわる硫酸化酵素の研究を手がけ、アンチトロンビンとの結合に必須となるグルコサミンの3位の硫酸化を行う酵素のうち、現在知られているヒトの酵素のすべてを彼が同定している。また、これまで活性を測定することそのものが困難だと思われてきたこれらの酵素のアッセイ法は、すべて彼が独自に開発したもので、硫酸化酵素研究への寄与は計り知れないものがある。
  まだまだ手下には任せられない実験が多々あるようで、今も自らの手を動かす日々を送っているが、日中の忙しさを補うために、朝早くからラボに出向き一人黙々とベンチに向かっている姿を見ることが出来る。現役の強みで、実験に対するトラブルシューティングは絶品で、すんなりとうまく実験を進めていくよりも、たくさん失敗して彼からどんなアドバイスがでてくるか聞いてみたくなる衝動に駆られる毎日である(?)。
ラボの構成
  新しいラボであるので、ポスドクが3人だけの少数精鋭態勢である。イラン人のササンは、ボスと同い年ながらイギリスで学位を取ったばかりの苦労人で、2歳になったばかりの息子さんの話題は恒例のお昼のトピックスとなっている。また、30人ほどいるフロアの唯一のアメリカ人であるジョンは、アメリカの歴史からコンピューターに関する知識まで教養豊かなナイスガイで、我らの知恵袋である。日本企業に務める友達が何人かいることもあって、日本に関する情報も豊富で、しばしば日本語で語りかけられることがあるが、こちらはまさか日本語を話しているとは思わず、ときおり本当に日本人であるか疑われることがある。
  ラボにはボスも含めて4人しか居ないが、2つの部屋を持っており、コンピューターが1台しかないことを除けば、かなり恵まれた環境で研究をしている。しかし、所有している機器には限界があり、7割以上は別のラボのものを借りなければならない状況だが、同じフロアでポスドクを15人ほど抱える大きなラボのSimonsラボのボスであるMike Simonsは、Nickの上司に当たるassociate professorであることから、快く様々な機器を共有させてもらっているので、実験にはまったく支障がない。
ラボの雰囲気
  ボスはランチを取らない生活スタイルであるから、しばしば12時過ぎにベンチにやってきて「ちょっとディスカッションしよう」とオフィスに連れていかれ、2時間ほど議論をすることもしばしばである。けれども、3人のポスドクはかなり気心知れた仲で、ボスにつかまらなければ、午後1時からの昼食にはいつも一緒に出向き、日々の話題を共有している。また、このフロアーは不思議な構造をしていて、他の部屋には一切窓がなく、唯一外の状況をうかがえる部屋が我がラボなので、いろいろな人が雨や雪の心配をしながら部屋を訪れることも多く、おかげでいろいろな人と会話を楽しむことが出来ている。
  普段の実験は、それぞれがそれぞれのプロジェクトを持って独自に進めている関係で、あまり口を挟むこともないのだが、ひとたびトラブル発生となると自分の手を休めてあれやこれやと可能性を探る問答が始まる。また、ササンは動物実験の、ジョンはタンパク質実験のスペシャリストであるから、こちらの遺伝子関連実験を得意としていることと相まって、それぞれに得意分野を補って実験が進められている。
  3人しか居ないので基本的に合同のミーティングはなく、ボスとはそれぞれ個別にディスカッションが行われる。ただ、毎週水曜日の午前11時30分からCardiology主宰の30人ほどが集まるセミナーがあり、週ごとに、論文の紹介とそれぞれのラボの成果発表が行われている。このときは参加者にピザと飲み物が振舞われ、和やかな雰囲気の会であるが、それぞれの突っ込みはかなり熱いものがあり、ただ呆然と事態を見つめていることもしばしば。

→ Harvard あれこれ


最終更新日:2000年 2月 4日