備忘録・2001年11月

日々の出来事やその日に仕入れた情報をお届けします

Tuesday, November 27, 2001
 金曜日に日本からのお客さまを迎え、週末はまたまたボストン観光の案内役をしばし。おみやげに新潟産のコシヒカリをいただいたのだけれど、チョコレート以外のお土産にこんなに嬉しい思いをするのも、最近の自炊のたまもの。なにしろ、毎日2合のご飯を食べていると、いやはやその消費の早いこと早いこと。なによりのお土産に、思わずにんまり。

 さて、毎週火曜日恒例の生物学科主催のセミナーの今日の講演は、我が研究室のボス、Rosenberg教授と相成った。実を言うとこちらのボスの講演を聴くのは初めてのことで、大方の内容はすでに知っているとは言え、僕にとってはかなりワクワクもののセミナーであった。

 糖鎖生物学はまだまだ注目の度合いが低い分野であるから、学生たちの関心はいかがなものかというのも別の興味ではあったが、これが意外といっては何だけれど、予想をはるかに超える聴衆が集まってホッと一安心。シャープ教授やコラーナ教授といったノーベル賞教授も最前列に陣取って、熱心に質問を浴びせている姿が印象的だった。

 我がボスの語り口は、なかなかに聴衆を引き付けるに足るもので、盛んに笑いを誘っては複雑に思われがちな内容をソフトに包み込んで興味を換気している様は、今後の僕の発表にも大いに参考になるものである。特にあの笑いをとるタイミングを会得せねば。

 それから今日は、化学科のラボのベネズエラ出身の大学院生が帰国するとのことで、引っ越しの手伝いも少しばかり。船便で送るコンテナいっぱいの荷物を、3階から運び出す作業の大変さもさることながら、僕の渡米以来公私に渡って世話を焼いてくれた友がラボを去る(学位取得見込み)寂しさをふつふつと感じていた。祖国の発展のために身を投じたいというその意気込みが実を結ぶことを祈りつつ。


Thursday, November 22, 2001
Happy Thanksgiving!

 というわけで、今日は感謝祭。アメリカ人にとって方々に散らばっている家族が一堂に会するという意味で、クリスマスよりも大きなイベントといわれる日である。

 今日はNeedhamのお宅で開かれたパーティーに参加させていただいて、おいしいターキーに舌鼓を打った。まあ、そのおいしい食べ物にありつく前に、今回はホスト側の役回りだったので、ほんのちょっとだけだが料理の準備の手伝いをするというドキドキの体験。

 生まれて初めてマッシュポテトやらマッシュスクヮッシュやらを作ることになったのだけれど(普通の人にとっては大げさなもんではないけど)、いやはやマッシュポテトにはミルクが入っていたり、バターが入っていたり、チーズが入っていたりなんて・・・。しばらく、ただ潰すだけであの滑らかな感じを出そうとしていた努力は、先人の偉大な知恵の前にはかなく水泡に帰した。

 自分の手が入った食べ物を他の人が「おいしい」と言って食べてくれるというのも、なんとも不思議な気分ではある。はは、こちらは変なまずいものが出来なくてただほっとしていたのだけれど。よかった。

 それにしても、今日のターキーはうまかったなあ。かなりお腹いっぱいに食べたような気もするが、しっかりと残り物をおすそ分けしてもらって、アパートに帰るなりまたまたのどを鳴らしながら食べてしまったのだった。


Wednesday, November 21, 2001
 昨日のこの欄で、イチローがこの時代のメジャーリーグでMVPを取った意味は大きいということを書いたが、同じようなことを書いている新聞記者が居た。自分もスポーツライターと同じ目を持っているような感じで、なんだかうれしい。

 なんせ高校時代に新聞部に居たときは、常に結果と戦っている選手の真実に迫るスポーツライターに憧れていたから。余談ついでに、そんなわけで「江夏の21球」という記事で有名な山際淳二さんが若くして急逝したときには、本当に悲しかった。

 さて、今日の「Seattle Post-Intelligencer」という新聞に掲載されたその記事は、「長距離砲に酔いしれたこの国で、筋肉増強剤に頼る強打者ばかりがSports Center(ESPNというスポーツ専門チャンネルのニュース番組)のハイライトを飾るこの時代に、人々の関心がすぐによそへと移ってしまう現代に、海を渡ってアメリカにやってきてリーグ最多勝記録を作ったチームの起爆剤となった選手に対して、敬意が表された」とある。

 このMVPは、今年は次点に終わったジアンビ選手が昨年受賞したときに、その体格からは想像も出来ないことだけれど、なんと思わずインタビュー中に嬉し泣きに声を詰まらせたほどの重い賞だ。そのシーンを思うと、イチローが受賞の会見で満面の笑みをたたえながら応じている姿が、なんだか頼もしく思えた。

 今年のナショナルリーグのMVPに輝いたボンズ選手は、史上最多の4度目の受賞。さて果たしてイチローは、現代の主流に逆行するハンデを背負いながらそれを跳ね返して、また再びこの栄冠に輝くことがあるのだろうか。来年のシーズンが待ち遠しい。


Tuesday, November 20, 2001
 日曜日からここMITで開催されている「RIKEN-MIT Neuroscience Symposium」に参加。といっても、分野としては少々門外漢の僕は、興味のある話だけをつまみ食い。

 今日はちょっと実験が忙しかったこともあって最後の二人の講演だけを拝聴した。本当は理研の脳科学総合研究センター所長で、僕の奨学金の支援先であるヒューマンフロンティアの会長でもある伊藤先生の話も聞きたかったのだけれど、ちょっとついていけそうになかったので遠慮させていただいた。6月のトリノでご一緒させていただいたときには、よく考えてみれば世間話しかしなかったから、実際にどんなことをされている方なのか、実は今日初めて知った次第。

 さて僕が講演を聴いたその二人とは、このシンポジウムのホストでもあるMITの利根川教授と、コロンビア大学のEric Kandel教授。つまりノーベル賞受賞者の揃い踏みで会を締めくくるという、なんとも粋なというか贅沢なはからいであった。

 特にKandel教授はといえば、昨年神経細胞の情報伝達系の解明でノーベル賞に輝いたばかりであるから、まさにホットな方ということになる。トレードマークの蝶ネクタイは今日も健在で、72歳とは思えない歯切れの良い口調の講演からは、ノーベル賞の受賞は単なる通過点として、その後もさらに研究が滞ることなく進んでいる様が紹介されていた。

 何事も、凄いなあと思ってしまうとその距離がなかなか縮まらなくなってしまうので、あえてそう思わないように普段は心掛けているのだけれど、まあ、本当に凄いことを目の前にすると「こりゃすごいや」という感情を抑えることは出来ないらしい。

 ところで、マリナーズのイチロー外野手がアメリカンリーグのMVPに輝いたという嬉しいニュース。投票した記者28人のうち11人がイチローに1位票を投票したのに対し、4人が4位以下という評価が物語るように、2位のジアンビや3位の最有力視されていたブーンとは僅差だったようだけれど、28人全員が今年のMVP候補10傑の中にイチローを推したという事実、走・攻・守のセンスと精度でメジャーに挑んだ、いわばベーブ・ルース以前のベースボールスタイルが評価されたという意味は大きいと思う。何より、日本から渡って来たばかりの新人で外国人のイチローに、惜し気もなくメジャー最高の勲章を渡してしまうアメリカという国の大きさが、あらためて身に染みる出来事だ。

 来年、イチローは果たしてどんなプレーを見せてくれるのだろう。前年を足場にして必ず次への高みに上っていくイチローのことだから、MVPを受賞してますます来年が楽しみになってきた。


Sunday, November 18, 2001
 ついに、ついに、悲願のベガルタ仙台のJ1リーグ昇格。これによって、東北から初めてJ1リーグチームが誕生する事になった。

 最後には、同じ東北のモンテディオ山形と、この欄で何度となく紹介してきた大分トリニータとの最後の椅子を巡る争いとなって、なんとも複雑な心境ではあったのだけれど、今年の仙台を象徴するかのような後半ロスタイムでの幕切れを、やはりこの欄で幾度となく紹介してきた財前が決めたとあって、喜びもひとしお。

 最終戦を前に下位を相手に2連敗し、首位に居たのもつかの間3位に転落。こりゃ正真正銘の東北のチームだなあなんて思ってはみてもなんの慰めにもならず、おまけに最終戦の相手は逆に終盤に入ってことごとく接戦をものにしてわずか1年でJ1への返り咲きを決めていた京都パープルサンガとあっては、万事休すかとあきらめもあったが。

 今日もはるばる京都まで1500人ものサポーターが駆け付けて応援をしていたとか。今では仙台スタジアムを満員以上の2万人ほどが埋めるまでになったそうだけれど、東北電力からプロ化されたブランメル仙台時代を知る身としては、ここまでの8年は本当に長かったなあとしみじみしたりする。

 まあとにかく、1年でまたJ2に戻ってきたりしないように、J1でも頑張ってほしいねえ。海を越えて応援するサポーターもいる事だし。

 また今年も「残念だった」と書く事になった大分は、来年こそは。今年は途中で名将石崎監督を解任するという荒療法を経て、最終戦まで昇格の望みをつないできたその心意気は、絶対に来年につながると思う(と言うフレーズもはや3年目かな。最終的な順位では得失点差の関係で6位)。

 それから、柏で活躍した柱谷幸一監督を迎えてもうちょっとでJ1に手が届きかけた山形は、いやはや凄いの一言。石崎監督が大分に移ってからというもの、精彩を欠いていたけれど、潜在能力と地元の盛り上がりはまだまだ健在である事を証明してみせた。

 4位には新潟がつけているし、これまでサッカーの盛んな地域と思われていなかった所にも徐々にサッカーが浸透しようとしていて、Jリーグ百年構想がいよいよ実をつけるかのようで、なんだかうれしい。ちなみに、百年構想については「1998年11月8日の言いたい放題」で少し書いた事があるので、興味のある方はそちらもどうぞ。そこに書かれているフリューゲルスを前身とする現在J2に属する横浜FCは、まさに今その夢を実現しようと頑張っていることもうれしいね。


Friday, November 16, 2001
 MITの化学科には日本人会というものがあって、日本から来られた方や日本にゆかりのある方(日本で働いていた中国人やドイツ人もメンバーであった)との交流を深めようというものである。とはいっても、なかなか集まる機会もなく、もっぱらメンバーの中の誰かが日本に帰国するというときに「送別会」を開くための組織となりつつあるが。

 というわけで、今日はその送別会が行なわれた。僕はいつのまにかこの会の最年長となってしまったので(といっても歳の話ではなく滞在期間の話で、おまけに大学院生のS君の方が厳密には10日ほど滞在が長いのだが)、今日は幹事をおおせつかり、3人の方の帰国を惜しむこととなった。

 なんだか最近はめっきり日本からこちらに渡ってくる人も減ってしまって、この会のメンバーも減る一方である。今日は新しいメンバーの3人と化学工学科の方2人、さらには奥さん方を交えての会となったので、まあいつものような雰囲気でわいわいと行われたけれども、その実、今日の3人の帰国の後には、メンバーは5人ということになる。

 普段はなかなかお会いする機会は少ないとは言え、近くに日本人が居るというのはなんとも妙な安心感があるものだから、多いにこしたことはないのだけれど。


Wednesday, November 14, 2001
 今日は化学科のボスの誕生日。午後1時にメンバーに召集がかかり、学生さんの手作りのクリームケーキを囲んで35歳になった若きボスを祝った。

 ケーキの味はもちろんアメリカンなのだけれど、今日のはスポンジがなかなか日本人好みの柔らかさで、久々に懐かしい感触に遭遇。僕の誕生日のときにケーキを作ってきてくれた学生さんが、一切れ口に運んで開口一番「おお、なんか不思議な感触」と言っていたから、やっぱりこのシットリさというのは特別なもののようだ。

 ところで、僕のときはもちろんチョコレートケーキだったのである。これがまたこてこてのアメリカンだったけれど、まあ3年目ともなればもうすっかりチョコレートには耐性が・・・ん、やばいか。でもねえ、せっかく作ってきてくれたケーキを渋い顔で食べるよりも、心からうまいと思って食べられた方がやっぱりいいでしょ。と、すっかりアメリカナイズ。

 ちなみに、僕のときにはケーキが3つありましたねえ。と、ボスに振ってみたりして。


Tuesday, November 13, 2001
 いやはや久しぶりの更新。足しげく通っていただいているみなさんには、申し訳なく思うことしきりながら、一応愛犬ロッキーの喪に服したということでご了承を。

 その間、さっと過ぎ去ったつもりだった誕生日には、お祝いメールをたくさんの方からいただいたりして、本当にありがとうございました。こうして無事に31年目の人生に突入し、なんの代わり映えのない毎日ながら、これまた相変わらずあっちにこっちに落ち着きなく暮らしている次第。

 昨日はニューヨークで飛行機の墜落事故が起こり、まだ2か月前の悲しみが深く残る街を黒い雲が覆った。犠牲者の方々のご冥福を祈ります。

 ボストンはもうすっかり冬の装いに様変わりし、今日はついに最低気温が氷点下を記録。さあて、また気合いを入れて大学に通う日々が舞い戻ってきた。

 ところで、5月に2人の日本人研究者がアメリカ司法省から経済スパイ法の容疑で起訴された事件で、「Nature Neuroscience」に掲載された記事がこの程日本語に翻訳されて公開された。この事件は複雑な要素がからみ合う形で、なんとも混沌とした事態をはらんでいるのだけれど、現在の状況を客観的な立場でうまく説明しているものだと思うので、科学に携わる方もそうでない方も是非御覧いただきたい。

 さて、もう一つ専門的な話題。生化学の分野で大きな役割を果たしている「Journal of Biological Chemistry(JBC)」という雑誌が、4年後の創刊100周年を記念して特集を組み、最新号(JBC, Vol.276, 41527-41542, 2001)では「Reflections on Glycobiology(糖鎖生物学あれこれ)」なる概論が掲載されている。この分野をリードしてきたThe Johns Hopkins UniversityのSaul Rosemanの手によるこの記事は、今現在ここに関わっている人が後ろを振り返ってもう一度先を見直すにも良いし、これからこの分野に参入していこうという人が世界を概観するにもお手頃なもの。なにより、学術雑誌だというのに、欄外には当時のその時々の状況を綴ったエッセイが添えられていたりして、いつものガチガチの硬い雰囲気にふっとそよ風を吹き込んでくれている。一度お試しあれ。

 さてさて、突然始めた「自炊」も今のところ順調に続いているけれど、これは自分でも思わぬ嬉しい誤算。今まで晩飯といえば10分もかからなかったものが(なんせピザをひょいと口に放り込むだけだったから)2合のご飯ではそうもいかず、期せずして30分もテーブルの前に座ってどんぶりと格闘しているという変わりよう。まあ、これが結構楽しいとみえて(自分のことなんだけれど)、アパートに帰るのが待ち遠しい毎日。ん、ただ単に腹が減っているだけかも。



最終更新日:2002年 2月 17日