備忘録・2000年8月

日々の出来事やその日に仕入れた情報をお届けします

Thursday, August 31, 2000
 8月最後の日。ボストンはそろそろ秋の気配が・・・と思いきや、ここ2、3日は夏を惜しむかのように蒸し蒸しとした日が続いている。それほど気温が高いわけではないが、朝晩の歩きの後は、それでもどっと汗が吹き出るほど。おまけに、気分的にはもうすでに夏が終わっているつもりだったので、ちょっと体にはこたえる暑さ。

 まあ、暑いときには「暑い」と文句を言い、寒くなると「寒い」と文句を言うのもどうかとは思うが、それだけ他に何の出来事もない平和な一日だったということではある。

【今日の科学情報】
 京大の本庶佑教授の研究グループが、体内に抗原が侵入したときに作り出される抗体は、AIDという脱アミノ化酵素に制御されていることを『Cell』誌に発表した。これは、免疫学に残された最大の課題と言われるクラススイッチ(抗体の遺伝子の組換え)の仕組みを解明する手がかりとなるもので、将来は遺伝子治療への応用も期待されている。この論文の中では、フランスの小児病院などとの共同研究によって、ヒトの遺伝病で感染症にかかりやすい高IgM症候群がAID遺伝子の欠損で起きることをも同時に確認し、クラススイッチでAIDが関与していることは決定的になったとしている。
Muramatsu M., et al. (Sep.1,2000) Cell, Vol.102, 553-563


Wednesday, August 30, 2000
 同僚の引っ越しを手伝うため、夕方から車でブルックラインとケンブリッジを往復。

 どうやったらこれだけの荷物がこの部屋に入っていたのだろうと思うのは、引っ越しの常だけれど、その量においてとても独り者には思えないほどの数。

 久しぶりの力仕事で、少々疲れた。


Tuesday, August 29, 2000
 先週の金曜日、突然秘書がラボに駆け込んできて、「ボスが緊急入院することになった」と告げた。

 なんでも、先週の初めにマウスの手術をしている最中に、誤って自分の腕をメスで切ってしまったことと関係があるらしい。そういえば、右腕のひじのあたりが赤く腫れ上がっていたことを、ふと思い出した。

 破傷風にでもなっていなければいいが、と皆で大騒ぎとなったが、昨日無事に退院となり、今日から何事も無かったかのように現場復帰となった。

 週末をまるまる病室で送っていたせいか、ちょっと顔色がすぐれないことを除けば、むしろ前にも増して精力的なディスカッションが展開。いやはや、その研究に対する情熱には、ただ感服するばかり。

 知識はおいおい追いつくとして、情熱で負けるわけにはいかないぞ、と妙にこちらも気合いが入った一日だった。

【今日の科学情報】
 ローマで開かれている「国際移植学会」で、ローマ法王が演説し、「人類の生命への献身となる『科学』を賞賛するが、臓器移植の商業利用や、いかなる形のヒトの初期胚のクローン技術なども、『道徳的に』受け入れることは出来ない」と語った。


Monday, August 28, 2000
 すっかりインターネットに依存した生活になってしまっているのは、何も今に始まったことではないのだけれど、トラブルがあると(インターネットに繋げないなど)気分まで滅入ってしまうのは、我ながらどうかと思うことも。

 現在のトラブルとは、自宅から電話回線経由でインターネットを繋いでいる状況で、メールを受信することは出来るのに、送信することは出来ないというもの。これまでにも、たまにそんなことはあったので、そんなときにうまくいった解決策を、あれこれと試してみるのだけれど、今回はことごとくうまくいかない。

 こんな時は、メールサーバーを疑ってみたり、プロバイダーを怪しんでみたり、メールソフトに文句をつぶやいてみたり、はてはパソコンを恨んでみたり。

 1週間ほど前のサーバーに繋げないというトラブルは、ジオシティーズからお詫びの連絡が届いて原因がわかったのだけれど、今回もこのたぐいのトラブルであるのかもしれない。

 まあ、自分が悪いとは全然思っていないところに一番問題があるのかもしれないが。

 というわけで、こちらからのメールでの連絡が只今滞っていますので、首を長くしてお待ちのみなさん、どうかしばらくそのままの状態で、いやいや、首を一度引っ込めるなど楽な状態でお待ちください。


Sunday, August 27, 2000
 今日からローマで始まった「国際移植学会」で、来たる火曜日にローマ法王パウロ2世の演説が予定されているそうだ。

 ローマ・カトリック教会は、最近になって「科学」に対して大きな歩み寄りを見せているが、それでもクローン技術など、人間の命や尊厳をないがしろにしかねない概念に対して、依然警鐘を鳴らし続けている。

 果たしてこの席でローマ法王がどんな演説をするのか、注目したい。

【今日の科学情報】
『バイカルチャルになれる人・なれない人』(本田正文著・丸善ライブラリー)を読み終えた。タイトルはなんだか商業主義に毒された感じであまり好きではないが、その中身は国際人として異文化に暮らすための、言語科学的な解説書といったもので、外国に暮らす人にも、自分の周りに外国人が暮らしている日本の人にもお勧めの一冊。「言葉を二つも三つもぺらぺら話せて世界をうろうろしている人が国際人なのではなく、異文化で困っている人を助けてうまく適応させてあげられる人、そして自分もその中でその異邦人から異文化を学ぶことができる『普通の人』こそ真の国際人である」という主張に、思わずひざを打つ。


Friday, August 25, 2000
 オーストリアから隣のラボに来ていたポスドクの、6週間の日程を終えた明日の帰国を惜しんで、送別会がハーバードスクエア界隈で行われた。

 彼とはラボは違えども、スキー王国オーストリアの話で盛り上がったり、データ処理を手伝ったり、何より年齢が一緒ということで気の合う友達として接していた。そんな彼があっと言う間に帰国してしまうのは、ちと寂しいものである。

 会場は、陽気なスペイン語が飛び交うスペイン料理店で、美味のオンパレードとなった初めて食べるスペイン料理の数々を十分に堪能。誰か友達が遊びに来た時の候補店1位にめでたくランキングと相成った。

 サングリアのアルコール度がほどよく口を滑らかにしながら、わいわいがやがや時を忘れるままに過ごしていたら、とうに日付は変わってしまっていた。もう地下鉄も走っていないし、と途方にくれていると、そんな時間に友達を呼びつける者一人。めでたく、車でアパートまで辿り着くことが出来た。

 待つ者5人と運転手。すしづめの車に乗るのなんて小学生のとき以来かな。まあ、あまり声高には言えない話だが。

 それにしても、全員が世界平均以上とおぼしき大きな体を丸めた国籍の違うメンバー6人が、ぎゅう詰めに車に乗っている姿。いつの日か、彼らと世界のどこかで再会した時に、こんな思い出話をするのも楽しみだ。


Thursday, August 24, 2000
 突然の訃報。

 K-1で知られるAndy Hugさんが、急性前骨髄球性白血病で亡くなられたとの記事が、目に飛び込んできた。享年35。あまりにも急な出来事に、言葉が出ない。

 日本人以上に日本人らしいと言われたスイス出身の彼の、不屈のサムライ魂をもう見ることが出来ないなんて。

 心から御冥福を祈りたい。


Wednesday, August 23, 2000
 毎日歩いてラボまで通う途中に、レッドソックスの本拠地フェンウエイパークがある。

 この球場は1912年に建てられたもので、現在メジャーリーグの各球団の使用している球場の中でも、2番目に古い球場として知られている。古いだけでなく、球場そのものも小さいので、収容能力は3万5000人ほどしかなく、そのせいもあって地元での試合はいつも満員で、おまけに9月末のシーズン終了までのチケットは、もうすでにほぼ完全に売り切れてしまっている。

 そのため、わずかに確保されている当日券を求めて、朝9時の発売開始を待つファンが、チケットオフィスの前に並んでいる姿をよく目にする。前日に発表される先発投手が、エースのペドロ・マルチネスでもあろうものなら、その列もかなりの長さになることもしばしば。その反面、あまり期待の持てないピッチャーともなると、「今日の試合はないんだっけなあ」と思ってしまうくらいに、誰も並んでいなかったりする。なかなかシビアではある。

 今日は、長谷川投手のいるアナハイムとの試合だが、球場の脇を通ると人の列が出来ていた。その今日の先発は「Tomo Ohka」。相手ピッチャーもルーキーだから、この人気は大家投手本人の人気を表わしているようだ。その彼は、現在2連勝中で、安定したピッチングぶりから地元民の人気急上昇中である。

 雨のために試合開始時間が大幅に遅れたので、0時50分現在まだ試合は終わっていないが、大家投手は、最速153km/hの速球を駆使し、5回3分の1を投げて1失点とまたまた期待を裏切らない働き。勝利投手の権利を持ってマウンドを降りるときには、観客総立ちの拍手を受けていたようだ。ラジオでの観戦なので、実際には見れなかったけれど。

 アリーグ1位のヤンキースとは3ゲームの差。大家投手の活躍が、このゲーム差を「僅かな差」に見せてくれている。


Tuesday, August 22, 2000
 新入学シーズンを間近に控えたボストンの、最近の話題は「住宅難」。なんでも、ついにボストン地域の空き部屋率が1%を下回ったとか。

 40万の物件があるとして(ボストンの人口は約60万人)、わずか4000件の空き部屋を物色することになるが、60以上の大学を抱えるボストンだから、その新入学生の数だけ考えても、その住宅難ぶりが容易に想像できる。せっかく入学した大学から遠く離れた地域に、部屋を借りざるを得ない学生さんが多数出ているそうだ。

 最近の好景気を反映して、様々なビジネスチャンスに対応すべく、それぞれの大学が多様なコースを新設したのに伴って学生の数を増やしたことが、実はこの住宅難の一因だとか。何ともはや、自分で自分の首を締めているような話ではある。

 おかげで、家賃はまさに天井知らず。現在のボストンの最低家賃は、スタジオタイプ(ワンルーム)で約800ドル、1ベッドルームで約1100ドルだそうだ。治安がいいのも納得の高さ。

 もっとも、現在多くの大学が学生寮の建設を急ピッチで進めているそうなので、もうしばらくすれば少しはこの異常事態も解消されるかもしれない。「学問の都」もなかなか、大変ではある。

【今日の科学情報】
 アイオワ州立大学昆虫学部門のグループは、害虫抵抗性組換えトウモロコシの花粉がオオカバマダラ蝶の幼虫の死亡率を有意に上げることを野外試験で証明したと、環境分野の学術誌であるOecologia誌(8月19日号)に発表した。これは、昨年5月にコーネル大学のグループが発表した屋内実験の結果を支持するもの。それを受けて、米国のバイオ産業団体BIOは、この論文は真の野外試験の結果とは言えないとする旨の声明を昨日発表した。


Monday, August 21, 2000
 またまた最新号(9月号)の「Scientific American」の記事から。

 現在、アメリカのコーネル大学などで研究が進められている「食用ワクチン」について紹介されている。これは、文字どおりこれまで注射によって行われているウイルスに対するワクチン投与を、バナナやトマト、ポテト等の野菜にあらかじめワクチン物質を組込んで成長させ(遺伝子組換え植物)、その野菜を食べさえすればその効用があるようにする試み。

 実用にはもう少し時間がかかるようだけれど、これが実現すれば、現在貧しさのために亡くなっている発展途上国の何百万人という子供たちの命が救えることになる。


Sunday, August 20, 2000
 なんだか日本時間の土曜、日曜とサーバーに接続することが出来なくなってしまって、更新ができなかった。というわけで、「備忘録」連続更新記録も昨日で途切れてしまった。ふう、少し肩の荷が下りたりして。

 ところで、髪型をアガシ風にしてみた。

 いろいろなことが起きるのは世の常である。その流れに身を任せるのも一興。

 ロナウド風ではなくアガシ風になるところも、お茶目ではある。

 身も心も悟りの境地・・・。

【今日の科学情報】
昨日届いた「Scientific American」の最新号の「最初のアメリカ人は誰か」という何ともタイムリーな(「言いたい放題」8月13日の項参照)記事に、ちょっとびっくり。現在のところ、アメリカ大陸に渡ってきたと考えられるルートが4種類あって、それぞれ甲乙つけ難いとか。いずれにしても14,700年前の話だそうだ。


Friday, August 18, 2000
 仙台の東北大学で、18日から25日までの8日間の日程で「21世紀の研究と教育に関する国際シンポジウム」が始まったそうだ。

 東北大によると、期間中の参加者は46カ国、約1500人にのぼるそうだが、これだけの規模の国際シンポジウムというのは、日本では珍しいのではなかろうか。

 たった一人の大学教授が20年前に始めた、スイスのダボス会議世界経済フォーラムは、いまや30カ国を超える世界中の首相・大統領や、1000人を超える大企業の社長が、自主的に集まってくるビッグイベントとなった。もちろん、そこで討論される議題に、世界の経済界が一喜一憂する。

 東北大の始めたこの国際シンポジウムが、毎年行われるものになるのかわからないが、いきなり世界23カ国の大学から学長が結集するというこの会議を、是非とも恒常的なものにして、世界の研究と教育に携わる人たちへの提言の発信地となってほしいと思う。

 ダボス会議に先進国で唯一、首相どころか閣僚クラスの人物すら参加しない我が日本(いつも国会開催期間と重なるという事情があるにはある)である。国という「お上」のお墨付のない、小市民の始めた集まりに、なかなか出かけて行きづらいのは、まさに日本人の気質なのだろうか。

 果たして、東北大の始めた、世界に向けての草の根の市民の活動がどのように成長していくのか。注目したい。


Thursday, August 17, 2000
 9回裏、2アウト満塁。6対7と1点差と迫り、バッターは前の回に4番打者の代打として入ったランシング。総立ちの観客の大声援は、彼が相手の抑えのエースのスピードボールをとらえると同時に、悲鳴にも似た大絶叫へと変わる。そして、その打球がフェンウエイ球場名物の、グリーンモンスターに跳ね返るのを確認すると、球場はまさに割れんばかりの歓声に包まれた。

 というわけで、雲一つ無い晴れわたる空の下、レッドソックスとテキサス・レンジャースの試合を観戦してきた。実は今日のチケットは、ロシア人の同僚の奥さんからのプレゼント。彼女の勤める不動産会社のコネで手に入れたものだから、ピッチャーの顔やバッターを間近で拝める「ボックスシート」という絶好の場所での観戦となった。

 一時4点差をつけられていた試合は、劇的な逆転での勝利。興奮のるつぼとなったサヨナラゲームは、スコアも野球の試合で最もおもしろいといわれるルーズベルトスコアの8対7。

 実は、通算7度目となるメジャーリーグの観戦で、サヨナラゲームは今日が3度目。何という幸運。それ以外はすべて負けているから、つまりは9回までいつも我がチームが負けている状況ということになるが。

 絶好の天気と絶好の場所、そして隣には・・・試合の状況とはほぼ無縁に絶叫を繰り返すおばさん二人。ルールの解説を求めたかと思うと、野球のスラングを教えてくれたりして、なんだか忙しい。まあ、野球好きということには変わらないから、全然知らない人とでも、こうして選手のプレーに一喜一憂したりしているのもおもしろい。

 エキサイティングなゲームを観戦して、至福の時を過ごした肌寒い夏の夜。

【今日の科学情報】
 イギリスの保険省の諮問委員会は、クローン技術を使って心臓や肝臓など様々な臓器に分化する能力を持つヒトのES細胞を作る研究の解禁を求める報告書を政府に提出した。これを受けてイギリス政府は、クローン技術を活用することを認める法案を今秋、議会に提出することを明らかにした。ヒトそのものの複製につながる研究については、引き続き禁止するという。


Wednesday, August 16, 2000
 アメリカは今バケーションのシーズンを迎えていて、日頃居着いている病院の方のラボでは、ちらほらと休んでいる人がいる状況。

 しかし、学生が主体のMITのラボの方は、誰一人として休んでいる人がいない。そんなある日、天気もいいのでみんなで集合写真を撮ろうということになって、チャールズ川を背景にパチリ。それが、右の写真(クリックすると拡大されます)。

 なんだか今一つしっくり来ないのは・・・ボスがいない!!というのも、この時のカメラマンが何を隠そう我らがボスだったのだ。

 まったく持って世話好きのボスなもんだから、「Seebergerラボ」の集合写真にその本人がいないという、何とも不思議なものが出来上がった。本人いわく、次の学会でこの写真を使うそうだが、なんだかいいのかなあ、なんてちょっと心配してみたり。

 まあ、というわけで期せずして最新の近影報告と相成った次第。

【今日の科学情報】
2.4オングストロームの分解能で明らかとなったリボソーム大サブユニットの完全な原子構造
(この16ページにわたる圧巻の構造図は、必見です)
Ban,N., et al. (11 Aug.2000)Science, Vol.289, 905-920


Tuesday, August 15, 2000
 今日は、仙台の下宿でお世話になったおばさんの命日。一周忌である。

 息子同様にかわいがってくれたおばさんには、親不孝者きわまりなく、墓参りにもいけない身が歯がゆくもあるが、全国に散らばる70人におよぶ元下宿生とともに、僕もまた静かにおばさんを思う日であった。

 息子たちが多いので、僕たちを見守るために、昔にも増しておばさんは忙しい日々を送っているに違いない。

 あらためておばさんの御冥福を祈りたい。


Monday, August 14, 2000
 アメリカという国は、とにかく何でもビジネスにしてしまうらしい。まあ、この国に限ったことではないが。

 21世紀を間近に控えて、これまでには想像もつかなかったようなアイデアをビジネスに繋げている例は枚挙にいとまがないが、なんと博士号を取得する際の審査対象となった論文、つまり学位論文を売り物にしている企業があった。

 その会社とは「Contentville」というなんとも粋な名前(中身の町)の会社だが、そのページ(http://www.contentville.com/content/dissertations.asp)では、アメリカの大学で博士号を取った人たちの学位論文が、余すことなく取り引きされている。ちなみに、製本されていない状態の論文を買う場合は25〜30ドルほどで、ハードカバーの状態で買うとなると70ドルもする。

 一般的な書物と違って、その論文を書いた本人には一銭も入ってこないどころか、自分の論文が売られているなんてことを知らない人も多いに違いない。まあ、どんな人がこれを買おうとするのかは不明だが、まったくもっていろいろな商売があるものだ。

【今日の科学情報】
 8月15日発行の「Ichthyological Research(魚類学研究)」に、天皇陛下の論文が掲載された。沖縄に棲息するヒメトサカハゼと呼ばれるハゼが新種であることを明らかにし、学名を命名したというもの。天皇陛下の学術論文は11年ぶりで、これで7種目の新種のハゼの報告となる。


Sunday, August 13, 2000
 いま、11月の学会発表を前に万全を期すべく、論文を書いている。

 これまでは、ラボに自分のコンピューターを持ち込むということはしていなかったのだけれど、帰宅してから書くというペースでは、いかんせんその進み具合に限界があるので、しかたなくラボにコンピューターを持ち込むことにした。

 ラボにももちろんコンピューターはあるのだが、ポスドク3人で1台を共有しているもので、おまけにWindows NTなもんだから、僕の使っているマックのPowerBookとデータをやりとりするのに多少骨が折れる。そういうわけで、毎日カバンに入れたマックを背負って、通うようになった。

 しかしこのマック、ノートタイプといえども3kgほどの重さがある。5分もすれば、その重さが肩にずしりと響いてくる。なんだか、二宮金次郎を彷彿としたりして、一人にやりとしたりするが、まあそれで肩の荷が軽くなるわけではない。

 早く論文を書き上げて、また身を軽くして通うようにすれば良い話ではある。というわけで、どうれ、仕事、仕事。


Saturday, August 12, 2000
 英オックスフォード大学が「オックスフォード・コンパクト英語辞典」の新版を出版した。新しい辞書が出たときの楽しみは、どんな新語が掲載されたかということだけれど、さて、今回はどんな言葉が「英語」の仲間入りをしたかというと・・・。

 ロイターの伝えるところでは、インターネット文化を反映して、ウェブサイトのアドレスの名前を売却目的で登録することを意味する「Cybersquatting」、ネット関連企業「dot.com」などが入ったそうだ。

 このほか、人を見かけで判断する人物「lookist」や、ネットやコンピューター中毒に陥った10代の若者を指す「screenager」、遺伝子組み換え原料を使用した食品「Frankenfood」、同性愛者を見分ける能力「gaydar」なども掲載されているとのこと。

 しかしこのうち、僕は「dot com」と「Frankenfood」しか聞いたことがないぞ。

 自身の勉強不足か、はたまたイギリス言葉とアメリカ言葉の違いか。普段でも、和英辞書で調べたままに会話に使っていたりする言葉を、「なんだそれ」とアメリカ人に指摘されることも多いので、まあ「English」といえど「英語」と「米語」ではかなり違う言葉と言えなくもない。ましてや、新語となればその地域の流行の言葉であるから、その傾向が強いに違いない。と、自分の勉強不足は棚に上げて。

 いずれにしても、いつの時代も沢山の言葉が生まれ、そして沢山の言葉が忘れ去られていく。そんな中、果たして500年、1000年と使われ続けている言葉とはなんだろうか。そんな言葉を抜き出してみるのもおもしろいかもしれない。


Friday, August 11, 2000
 ふと気がつくと、時計の針は午後9時をとうに過ぎている。またまた、夕食の時間がずれこんでしまった。だいたいにして、夜はめったに腹がすかないものだから、いつも夕食時をはずしてしまうのだが、我ながら体には悪いような気がしている。まあこればっかりは生来の面倒臭がりと相まって、なかば仕方のないことなのだが、そうとはいえ自分でも呆れることしばし。

 こんなとき、日本であれば近くのコンビニに駆け込んで、弁当でも買えば十分に満足したものだが、アメリカに「弁当」なるものは存在しないので、食にありつくのにいまだ一苦労する。ハーバード大の病院群のあるメディカルエリアは、なぜだか知らねど働いている人の数に比して食事をするところが極端に少なく、午後9時を回ってしまうと、選択肢は「マクドナルド」ぐらいになってしまう。

 というわけで、今日は3日連続してのハンバーガー夕食となってしまった。目の前に「セブン・イレブン」があるのも皮肉なものだが、たとえ日本人の比較的多いこの場所と言えども、弁当はない。

 実は、スーパーで売っている冷凍食品が、なかなかにうまい(とはあくまでも味覚の貧困な--経済的ではある--自前の舌を基準にしての話だが)ことを発見し、日曜日に買いだめしておいたものを電子レンジでチンという時もあるのだけれど、最近のようにいつ帰れるのかわからないようなときは、近場で済ます方が手っ取り早い。

 それにしても、ハンバーガーをいくら食べても飽きることのない(ちなみに、お昼の大半はハンバーガー)僕の胃袋に、我ながら呆れるやら感謝するやら。

 いずれにしろ、栄養のバランスは・・・、まあそれなりに、一応考えては・・・。独り暮らしも早10年、いたって健康。なんとかなるものである(と開き直ってみたり)。


Thursday, August 10, 2000
 先日見た映画「THE PERFECT STORM」は、1991年の10月末に実際に起きた嵐とそれを体験した人々の話を元にして描かれている。この嵐は別名「呼び名のない嵐」とも言われていて、名前をつける基準がないほどの、気象学上まさにパーフェクトな嵐として語り継がれているそうだ。

 何が「パーフェクト」だったのか。

 1991年の10月末、バミューダ海域から「グレイス」という名のハリケーンが北上し勢力を弱めたあたりで、グレイスの進路の北西にあった寒冷高気圧と、北東にあった爆弾低気圧とが、大西洋上で激突して生まれたのが「パーフェクト・ストーム」である。このとき、夏の嵐であるハリケーンと冬の嵐である寒冷高気圧、そして春や秋の嵐である爆弾低気圧が出会うという、奇跡が起きた。しかも、この3つの嵐がたまたまちょうど中位の大きさの嵐だったために、どれかひとつがほかの2つを飲み込むということもなく、ほどよくパワーを提供しあって、史上最大の嵐が出現した。波の高さは30mにも達したそうだ。まさに、あらゆる条件がそろった「パーフェクト」な嵐だった。

 ちなみに、映画の舞台となったボストンにほど近いGloucesterは、ボストンの歴史からさらにさかのぼること26年前の、1604年に探検家シャンプランがこの港に入港し、「美しき港」と名付けたことに始まる、アメリカきっての歴史ある港町である。1800年代後半には、単独大西洋横断や単独世界一周航海の出発地としても注目された。また、現代の食生活を支える「冷凍食品」を開発したことで知られるクラレンス・バーズアイ社は、このグロースターを拠点とする会社(高速冷凍技術に関する特許は、その後ゼネラルフーズ社に売却された)。

 というわけで、「THE PERFECT STORM」にちなんだ今日のImport Data。


Wednesday, August 9, 2000
 ボストンは、遅ればせながら夏真っ盛り。先週までの冷え冷えとした気候から一変して、蒸し暑〜い毎日が続いている。

 日中は、むしろ効かせすぎ気味の空調の元で仕事をしているので、何の問題もないのだけれど、帰宅してから次の日また出かけるまでが大変。仕事場とのギャップにあえぐ我が体をなだめすかして、唯一の冷房設備の扇風機を、体の移動と共に移動したりして暑さをしのいでいる始末。

 一度寝てしまえば、部屋が火事になっても起きることのなさそうな熟睡度を誇っていた睡眠も、最近の熱帯夜の前には、2度3度と目が覚めるのを余儀なくされている。こんな時、夏の暑さは筋金入りの日本の京都の昔の人たちは、いったいどうやってしのいでいたんだろうなあと考えてみたり。

 まあ夏だから・・・。

【今日の科学情報】
化学:DNA燃料で動く、DNA製の分子機械
Bernard Yurke, et al. (10 August 2000 Nature) Vol.406, 605


Tuesday, August 8, 2000
 HFSPからの連絡で、先頃提出していた研究計画の変更を認める決定が出たとのこと。

 これで一安心して、HFSPからのサポートのある残りの期間(来年の5月末まで)の実験に集中できそうだ。よかった、よかった。

 うれしい知らせがもうひとつ。先日、隣の州のニューハンプシャーで開かれていた「ゴードン国際会議」で、僕の名前が3人のスピーカーの発表で紹介されていた、と知人が知らせてくれた。

 これは、2人のボスの発表とシカゴの共同研究者の発表でのことで、いずれも僕の実験の結果を取り入れて発表の一部としている。とは言え、全体の発表の内容からいえば、ほんの一瞬を担っただけだから、あまり威張れたものではないのだが、あらためてこう指摘されると気分の悪いことでもない。

 ということで、単純にも俄然元気が出てきたぞ、という話。


Monday, August 7, 2000
 1942年に施行された旧食管法以来、稲作農家の収入を支えていたのは、政府による米の買い入れである。このお百姓さんにとっては命綱でもある今秋の米の政府買い入れ数量が、なんとゼロになる可能性があるという。

 農林水産省は、1997年に国産米の適正在庫を150万〜200万トンにする目標をたてて、販売量から25万トンを引いた数量を買うというルールを作った。このルールに従えば、今年6月末までの販売量の14万トンから計算して、今年の総販売量が25万トン程度となって、ルールの25万トンを引くときれいにゼロになってしまうのだ。

 政府米の販売不振は、自主流通米の価格を維持するために、自主流通米と競合する銘柄の販売を凍結しているために生じていて、農家のための救済処置ではあるのだが、北海道や青森では依然と政府買入米への依存度が高いことを考えると、農家の長男としては、ちょっと複雑な心境ではある。

 もちろん、今年産米の全量が自主流通米へと回れば、市場価格を一層下げることになるから、消費者にとっては願ってもない話となるのだけれど、国の基盤である農業を営む人たちの生活を奪ってしまうつけは、あまりにも大きいのではないだろうか。

 とはいえ、農業と言えども市場経済の上に成り立つ職業であるから、それぞれのお百姓さんの知恵によって、この逆境を乗り越えるしかないのだろう。

 そのバラエティーぶりによって「百の姓を持つ」と表わされたのが、百姓である。歴史の上で、陰となり日向となり、弥生時代以来の日本を支えてきたのだ。あふれるバイタリティーを、今、日本のお百姓さんに期待したい。


Sunday, August 6, 2000
 歩いて15分ほどのところに「麺亭」というラーメン屋がある。もちろん、日本の食べ物。

 味は、まあ推して知るべしというほどだし、値段も安くはないので、めったに行くこともないのだけれど、「冷やし中華」が食べたくなってちょっと寄ってみた。

 メニューにあるかどうか不安だったのだが、壁に掛けられた品書きに「冷やし中華 Cold Ramen」とある。

 注文して出てきたものは・・・「冷やしラーメン」だった。冷やし中華は、牛タンや回転寿司、炉端焼きといった仙台発祥の食べ物の一つで、日本中でもいまや夏の風物詩として数えられても良いと思うのだが、これと冷やしラーメンは別物。

 冷やしラーメンは、山形が発祥となる食べ物で、まさにアツアツのラーメンの汁が、冷たい汁になっている感じ。並べてみれば、全然違うものだというのがすぐに分かる。しかし、鎌倉に居たときにもよく遭遇したけれども、「冷やし中華」「冷やしラーメン」「冷麺」といった名前は、完全に混同して使われていて、現物が出てくるまではちょっとヒヤヒヤしたものだ。辛いものが苦手な僕は、岩手名物のキムチがどっさり載った「冷麺」が食べられないもので。

 というわけで、ラーメン屋のみなさん、名前は正しく表記しましょう。


Saturday, August 5, 2000
 昨日に引き続き、真っ青な空。やっぱり、夏はこうでなくっちゃ。

 しかしこの季節、晴れるということは暑いということでもある。ラボへの道すがら、歩きながら「う〜、暑い」という言葉が思わずこぼれる。寒い夏にうんざりしていたのに・・・。

 これがラボに到着すると、初めこそ体のほてりが勝って汗が流れるのだが、ほどよい冷房のため次第に心地よくなってくる。このあたりが、我が家に居るのと根本的に違うところ。

 しかし、またまたほどなくして、今度はだんだん寒いと感じ始めてくる。冷房が利きすぎだ。白衣を着込んで、作業の合間に廊下を歩き回ったりするのだが、廊下までしっかりと冷房は利いているのであった。

 人間とは、わがままな生き物だ。

【今日の科学情報】
 結晶構造解析が非常に困難な「膜タンパク質」に属する、Gタンパク共役受容体である「ロドプシン」の立体構造が、理研らのグループにより解明された。同じ基本構造を持つ膜タンパク質は数千種あると考えられており、これらは現在の新薬開発のターゲットでもあるので、大きな反響が期待される。
Science (4 Aug. 2000) Vol.289, 789


Friday, August 4, 2000
 所属するAngiogenesis部門のメンバーによる、「Clam Bake Party」が行われた。会場は、マサチューセッツ州の北端に近い「Ipswich」のsteep hill beach。ボストンから車で1時間ほどのところ(ボストンの北55km)にあるプライベートピーチで、家族などを含めて総勢30人ほどの大イベントだった。

 当初の予定では「Georges Island」という島に渡って行われるはずだったが、この島は公共の場所であるため、州法によりアルコール類を飲むことが出来ない。そこで、急きょ大ボスの決断で、プライベートビーチを借りてのパーティーとなった次第。

 将棋仲間のロシア人の運転する車に乗り込み、一路イプスウィッチへ。現地に到着したのは、途中ちょっと道に迷ったせいもあって、午前11時を少し過ぎた頃だったが、我らが一番乗りだった。この時、他のメンバーが交通渋滞に巻き込まれて、その後1時間半も待つことになろうとは、知るはずもない・・・。

 「Clam Bake」というくらいだから、メイン料理はもちろん「貝の塩焼き」なのだが、貝アレルギー持ちの僕は当然食べられない。初めに聞いたときは、参加するのをよそうかと思ったほどだったが、ラボの秘書さんらの説得により、こうして参加することとなった。今となっては、参加して本当に良かったと思う。なかでも、最後に出されたロブスターのうまいこと。おまけに食べ放題。

 腹もふくれたところで、ビーチでアジアチーム対その他世界チームによる国際サッカー「Zマッチ」となった。結果は、4対1によりアジアチームの勝ち。負けず嫌いの僕としては、なによりうれしかったりして。

 そのとなりでは、アメリカンフットボールの簡略版「タッチフットボール」が、誰かけが人でも出るんじゃないかと思われるほどに真剣に行われていたりして、ボスたちの意外な一面をかいま見たり。

 帰途は、魔女の街として知られるセーラムを突き抜けて、海岸の風景を楽しみながら、車内では掛け合い漫才よろしく笑いの絶えない小旅行となった。なにより、昨日まで1週間ほどぐずついた天気が続いていたのがうそのように、真っ青に晴れわたった空と、その下に広がる海とビーチに、大満足。


Thursday, August 3, 2000
 燃焼現象の新たな解析手法である「活性化エネルギー漸近解析法」の開発や、スペースシャトルに代わる「スペースプレーン(宇宙往還機)」開発における、超音速の空気の流れを利用するスクラムジェットエンジンの基礎研究などで知られる、東北大流体科学研究所の新岡嵩教授が、イギリスで開かれている第28回国際燃焼シンポジウムで、国際燃焼学会の「エジャートン金賞」を受賞した。

 エジャートン金賞は、燃焼科学・工学分野で最も権威ある賞として知られていて、日本人では3人目の受賞となった。

 この「国際燃焼シンポジウム」は、燃料の有効利用、環境破壊につながる燃焼排出物質の低減に向け、2年に一度開催されている。

【今日の科学情報】
 昨日てもとに届いた「サイエンス」誌の表紙を見てびっくり。猿のようでもあるヒトらしき不気味な生物が、手に持った銃の口をこちらに向けているイラスト。今週号の特集は、ヒトを含めたあらゆる生物がなぜ暴力を振るうのかというもので、生物学的および心理学的に探った総説が、26ページにわたって掲載されている。ちょっと長いけれど、おもしろそうだ。


Wednesday, August 2, 2000
 昨日のメジャーリーグ。ケーブルテレビに加入していない僕は、地上波での放送でないと試合を見ることが出来ないのだが、昨日のゲームはFox Sportsという地上ライブだったので、家に帰り着いてから寝るまで、ずっとテレビはつけっぱなし。

 昨日は、レッドソックスとマリナーズの試合が敵地・シアトルで行われたので、東海岸での試合開始時間は午後10時5分。まあ普段でも西で試合があるときは、終了までつきあっているためには気合いがいるのだが、昨日は延長に入っても決着がつく気配もなく、しかたなく途中で断念して床に就いた。

 朝起きて結果を見ると、なんと今季メジャーリーグ最長となる延長19回に、サヨナラホームランで決着がついていた。サヨナラというくらいだから、我らがレッドソックスが負けたわけだが、マリナーズの勝ち投手は「DAIMAJIN」佐々木。なんでも、最終回の1死満塁の場面で登場し、残り二人を三振と一飛に仕留めて、その裏の決着弾に流れをつなげたとのこと。

 ア・リーグ規定では延長戦は午前1時で打ちきりで、決着がつかなければサスペンデッドゲーム(一時停止試合)となり、夜が明けてから続きをやることになっているのだが、試合が終わったのは、制限時間まで残り21分の午前0時39分。東海岸では、実に午前3時39分という時間。まったく大リーガーというのは、タフである。

 ちなみにこの2チームは、1981年の8月3日にも、ここボストンのフェンウェイパークで 、延長20回に決着がつくという試合を記録している。

【今日の科学情報】
 慢性骨髄性白血病の遺伝子治療として、がん遺伝子の作るRNAを正常な遺伝子のものと見分けて切断し、白血病細胞を殺すという方法を開発していた日本のグループが、マウスの実験に成功。
Nature (3 Aug. 2000) 406, 473(brief communications)


Tuesday, August 1, 2000
 日曜日にバーベキューをしたという話を書いたけれども、雨にたたられて屋内で楽しんだパーティーも、果たして「バーベキュー」というのだろうかとふと疑問に。

 そこでいろいろとバーベキューについて調べてみたところ、
1) 野外で焚き火や炭火などで肉や魚や野菜を焼くための器具
2) 1)を使って調理したもの(料理)
3) 2)を食べるために催す集まり、パーティーなど
という意味があるようなので、今回は1)〜3)の全てを網羅したれっきとした「バーベキュー」だったことが判明!!

 ついでながら、バーベキュー(barbecue)の語源を調べてみたら、「American Spanishのbarbacoaが語源で、barbacoaとは『肉を火であぶるために支える枠組』を指すTaino族の言葉に由来すると考えられている」そうだ。

【今日の科学情報】
 Northwestern大、Harvard大、アレルギーの原因となるIgE肥満細胞受容体結合分子の3次元構造を解明



最終更新日:2000年 9月 1日